執行役員制度は、97年にソニーが導入したのが始まりで、それ以降多くの会社がこれに追随している。
執行役員とは、業務運営の責任者であると同時に実際の業務の執行者でもある。法が定める取締役とは異なり、株主に対する責任はなく取締役と従業員との中間に位置しているが、あくまで従業員の立場に変わりがない。
執行役員制度を導入すると、取締役から
執行役員になった者は、その肩書きから「取締役」がとれるので寂しい気持ちがあるのかもしれないが、その仕事の内容も報酬も以前と変わらない企業がほとんどといわれており、実際上不利益を被ることはなさそうである。
よい点もある。
執行役員は取締役と異なり会社に対して善良なる管理者の注意義務を負うことはない。ということは株主代表訴訟の対象となることはないと一般的に考えられている。
執行役員は商法260条2項3号の「支配人其ノ他ノ重要ナル使用人ノ選出及解任」に該当するので、その就任については取締役会の承認を必要とするが、会社は、部長、支店長、などの就任と同様の業務命令によりその就任を命じることができる。その会社との関係は一般の従業員と同じ雇用という契約に該当するが、就任する際には従業員をいったん退社して雇用契約を解除し、新たに委任契約の締結ということも考えられる。業務の委任ということになると、その裁量で業務を処理できる範囲が定められる。その結果、分担する範囲と権限が拡大されると業務執行権限を委ねられる各
執行役員が自己の業務範囲内とはいえ実質的な意思決定を行うようになりうる。
執行役員が取締役とほぼ同じ職務権限を有し、それにより行動するならば「事実上の取締役の理論」が適用されることも考えておかねばならない。
一方、従業員と同様の雇用契約のもとにおくとして、会社は
執行役員をいきなり解雇できるかという問題がある。
執行役員がその雇用形態から一般の従業員と同じく労働者として労働基準法の保護を受けられるかどうかは、契約の形式ではなく、実質的な職務範囲と権限で判断されよう。 委任契約となるとしても、
執行役員の職務遂行上、会社の命令・指示に対しどの程度の裁量がふるえるかによって労働基準法の保護が受けられるかどうかが決まる。他の従業員と大きな差がないとされれば実質的な雇用契約関係とみなされよう。
ところで、
執行役員制度を導入した会社が
執行役員に専務
執行役員、常務
執行役員の名称を付したり、単に、専務。常務とだけとしているところがある。この場合、
商法の規定(表見代表取締役の行為の責任)の類推適用される可能性は大きいと考えておくべきである。
日本においても、米国のように社外取締役の登用が進み会社の意思決定と業務の執行の分離がますます明確になれば、サラリーマンにとって
執行役員に就任することこそ、プロとしてのゴールとなるであろう。